NOBUと旅する男
今回東京へは、電車で行く事となった。 電車に乗るのは久しぶりで、ましてや始発に乗るのは初めてだ。 朝早い金沢駅には、人もまばらで、新しい空気と供に特急電車が待っていた。 始発だと言うのに,駅員は人々を乗せる誇りと充実感で、 張り切った笑顔でいってらっしゃいと送り出してくれた。 私たちもNOBUを筆頭に電車に乗り込んだ。
しばらくは心地よい揺れの睡魔には打ち勝ち、電車や景色をながめ 久し振りの電車の旅を楽しんだ。 各駅で旅する人たちが乗り込み、いつしか満員電車となっていた。 携帯電話をいじる者、目をつぶっている者、眠っている者、周りをちらちらと見ている者、 どことなく景色を見ている者、本を読んでいる者、電車の過ごし方はそれぞれで、 それぞれに行き先があり、それぞれの一日の始まりが近づいている。 私はそれらの人々を眺めながら、心地よい揺れに身を任せ、 いつしか眠りについていた。
ガタン、私の首がコクンと左に倒れ目が覚めた。 すぐにNOBUを探す。 居た。 ほっと胸をなでおろす。 置いていかれたかと思ったのだ。 彼ならありえると、心のどこかで思っていたからだ。
彼は、窮屈に人と人の間にぎゅっと納まり、携帯電話をいじっている。 これから始まる旅のスケジュールを皆のために確認しているのだ。 一度聞いた事がある。 迷路より迷路な東京の街や電車を、間違えずにすいすいと目的地まで案内するNOBUに 「どうして間違えずにいけるの?」 「方角で覚えているからだよ」 ほとんどの行き先を感で進む私には、どっちが北か南かなどは、 天然ボケを炸裂させる時の〇〇を理解するのと同じことだった。
隣の席を見ると、知らない女性が座っていた。 いつの間に座ってきたのかのと思いながら、彼女が読んでいる本に目が行った。 普段は気にならないが、なんとなくその本が気になり、 彼女にはばれないように、横目で一緒に読み始めた。
一人の男が、女一人と男三人を旅に連れて行く話だ。 その男は、終始バイタリティ溢れ皆を先導する。 時には飲み物をこぼしたりしながら、どんどんと進んでいく。 皆の見聞を広げようと、一生懸命なのだ。 本人は気づいていないのか、わざとなのかは分からないが、 その行動一つ一つが、女性の母性本能をくすぐるらしい。 彼が女性に不自由している話は聞いたことがない。 もう一つ、男性にも不自由しないと言うのが、もっぱらのうわさだ。
それから、旅の内容が盛りだくさんで書かれている。 自分も行ったような気分にさせられるのだ。
最初は元気だった皆も、3日目になるとさすがにしんどいようで、 事あるごとに休憩を要求するようになった。 そんな皆の気持ちも彼は汲んでくれた。 休憩になると、アルコールをあおり、誰よりも真っ赤になってはじけるのだ。 彼のおかげで、その旅は大成功を納めた。
急でもないブレーキが,体をゆっくり前のほうへ押し出す。 首がもたれると同時に目が覚めた。 また眠ってしまった。 隣を見ると、そこに居たはずの彼女がもういない。 どこかの駅で降りたのかと思ったのだが、座席に一冊の本がある。 手にとって周りを見渡すが、どこにもいない。 目に見えるのは、今回の旅のスタッフだけだ。 探すのをやめ、その本に目を落した。 さっき横目で盗み見た本だった。 そのとき、電車のアナウンスが鳴った。 次は金沢、次は金沢、お忘れ物のないように・・・と。
by 加賀川 乱走(fowl)
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